人生は哲学だ~凡人の生き様日記~

啓蒙思想家に憧れ。理想は新渡戸稲造。 レオナルド・ダ・ヴィンチよりも多趣味だと思いたい。学問的、哲学的、時にアニメとか映画、んで個人的な雑記で、理想は酒でも呑みながらある種の娯楽として楽しめるものになればといいな的ブログ

書評。京極夏彦【厭な小説】

【厭な小説】という短篇集を購入。

京極夏彦は初めましてだった。


「厭」とは、はて、どの程度厭なのだろうかと思ったところから購入に至る。

本もまた、分厚くて誠によろしい。

厭な小説 文庫版 (祥伝社文庫)

厭な小説 文庫版 (祥伝社文庫)

この本の中に【厭な彼女】という話がある。

これが非常に面白かった。

簡単に言えば彼女は彼(主人公)から「〜が嫌い」とか「〜が嫌だ」とかそういう否定の言葉をもらうと【次の時からずっとその厭な事を態とらしく「する」】のである。


あー。厭ですね。

そうそう。この小説は【厭だ】という言葉がいつも始まりと締めにだいたいあるんだけど、オチにある「厭だ」という言葉が持つ重みがもう凄いですね。

だって確かに「厭だ」もんね。
僕だって「厭だ」し。

また、各章の冒頭文の「厭だ」もなかなかいいですね。
なんとなくその言葉の続きに耳を傾けたくなる。
主人公に同情の感情を持たざるを得なくなる。

しかし、【厭な彼女】。厭だね。
でもこの話の彼女は途中まではなんか可愛く見えるんですよ。
主人公との不協和音がどこかシュルレアリスム的で良い。

主人公の心の描写もまた良い。

厭な事が現在進行形で起こってるんだけれども、主人公の性格がそうなのか…淡々とツッコんでいる。

この小話の良いところはやはり家の中で繰り広げられる「ハヤシライス事件」(←僕が勝手にそう呼ぶことに今決めた)ですね。

このあたりのシーンは読み終わって随分経つけれど、時に脳裏に蘇り、心の中で苦笑してしまうこともある。

いや、主人公にとってはなかなか屈辱的で、精神的に参ってるんだろうけれども、彼女の振る舞いと、テーブルにあるハヤシライスの事と、淡々と行われる会話。
これは形容し難い空気である。


後半は京極夏彦さん持ち前の狂気な空気と
精神にじわりじわりと陰りがかかる感覚。

これは面白かった。

他の話ももちろん好きなんですけどね。

この話は特に記憶に植え付けられた。
すごく良かったのだけれど、ハヤシライス見たらやっぱりフラッシュバックするわけです。


―厭だ。