書評。京極夏彦【厭な小説】
【厭な小説】という短篇集を購入。
京極夏彦は初めましてだった。
「厭」とは、はて、どの程度厭なのだろうかと思ったところから購入に至る。
本もまた、分厚くて誠によろしい。
- 作者: 京極夏彦
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2012/09/01
- メディア: 文庫
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この本の中に【厭な彼女】という話がある。
これが非常に面白かった。
簡単に言えば彼女は彼(主人公)から「〜が嫌い」とか「〜が嫌だ」とかそういう否定の言葉をもらうと【次の時からずっとその厭な事を態とらしく「する」】のである。
あー。厭ですね。
そうそう。この小説は【厭だ】という言葉がいつも始まりと締めにだいたいあるんだけど、オチにある「厭だ」という言葉が持つ重みがもう凄いですね。
だって確かに「厭だ」もんね。
僕だって「厭だ」し。
また、各章の冒頭文の「厭だ」もなかなかいいですね。
なんとなくその言葉の続きに耳を傾けたくなる。
主人公に同情の感情を持たざるを得なくなる。
しかし、【厭な彼女】。厭だね。
でもこの話の彼女は途中まではなんか可愛く見えるんですよ。
主人公との不協和音がどこかシュルレアリスム的で良い。
主人公の心の描写もまた良い。
厭な事が現在進行形で起こってるんだけれども、主人公の性格がそうなのか…淡々とツッコんでいる。
この小話の良いところはやはり家の中で繰り広げられる「ハヤシライス事件」(←僕が勝手にそう呼ぶことに今決めた)ですね。
このあたりのシーンは読み終わって随分経つけれど、時に脳裏に蘇り、心の中で苦笑してしまうこともある。
いや、主人公にとってはなかなか屈辱的で、精神的に参ってるんだろうけれども、彼女の振る舞いと、テーブルにあるハヤシライスの事と、淡々と行われる会話。
これは形容し難い空気である。
後半は京極夏彦さん持ち前の狂気な空気と
精神にじわりじわりと陰りがかかる感覚。
これは面白かった。
他の話ももちろん好きなんですけどね。
この話は特に記憶に植え付けられた。
すごく良かったのだけれど、ハヤシライス見たらやっぱりフラッシュバックするわけです。
―厭だ。